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『馬蹄寺』

 今から八百年も前、鎌倉時代のお話です。

 平方に、吾妻左衛門是好(これよし)という長者が住んでいました。
 ある秋の夕、知道という托鉢僧が、この寺を訪れ一夜の宿をたのみました。
心のやさしい是好は、「さぞお疲れでしょう、ゆっくりおやすみ下さい。」と言って、夕食とあたたかい布団を用意してくれました。

 奥の一室に案内された知道は、いままで見たこともない豪華な布団に、ふと、悪心を起こし、その布団を盗んで逃げ出そうとしました。厩の前を通りすぎようとした時、飼馬が、「わたしの前世は人間で、ここの主人の伯父・庄司好光じゃ。軒を並べた長者であったが、遊び暮らしているうちに財産をなくし、この家の主人に助けてもらった。そのため、今は馬になって重い荷物を運んで恩返しをしている。その償いも終わるので、明日は、死ぬであろう。あなたも悪心をおこすと、大変なことになりますよ。」と人語でさとしました。
驚き、座敷に逃げ帰った知道は、その晩、眠れぬ夜をすごしました。

 次の朝、馬は、荷物を運んだ帰り道、ひずめを折って死んでしまいました。
 これを知った知道は、すべてを是好に話し心からあやまりました。是好は、「知らないこととはいえ、おじさんに毎日重い荷物を運ばせてしまい、申し分けなかった。」と馬蹄庵という庵を建てて馬を手厚く葬ってあげました。

 その後、この庵は、馬蹄寺と呼ばれるようになったということです。